8月24日の日経新聞で自社株対価TOBについて記事が掲載されていました。
これまで課題となっていた株主への課税について、一定期間猶予されるよう要望するという内容でした。
実は自社株対価TOBは、当初は株主への課税以外にも多くの問題がありました。
その問題に対して手当がされたものの、残っていた問題が今回話題となっている株主への課税です。
自社株対価TOBについてまとめました。
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自社株対価TOBのメリット・株式交換との違い
まずは自社株対価TOBのメリットについて
・株式購入の資金調達が不要
これまでは株式を購入するために巨額の借り入れをするケースなどがありました。
しかし、自社株対価TOBであれば自社の株式を対価とするので金銭の準備が不要となります。
・自己株式の有効活用が可能
昨今、多くの企業で自社株買いが行われています。自社株買いした自社株を有効活用し、
他の企業を買い付けることが可能となります。
次に、よく比較対象となる株式交換との違いです。
・対象上場を維持したまま一部を買収することが可能
株式交換の場合、買収対象会社を100%子会社とすることになります。
つまり、上場基準を満たさなくなってしまうのです。
自社株対価TOBであれば、一部の株式を買収することで上場を維持することが可能となります。
・対象会社での株主総会決議が不要
株式交換の場合は、自社でも買収対象会社でも株主総会決議が必要となります。
自社株対価TOBの場合、株主総会決議は自社のみで可能です。
自社株対価TOBの当初の問題点
先ほども触れましたが、自社株対価TOBには当初様々な問題がありました。
大きくは会社法上と税法上の2つです。
順に見ていきましょう。
〈会社法上〉
①有利発行規制(会社法199条2項、201条1項、309条2項5号)
払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、株主総会において理由を説明し、
特別決議が必要
「特に有利な金額」・・・会社法では定義されていない。日本証券業協会が定めた自主ルールを参考とする。
第三者割当増資を株主総会特別決議を経ないで行う場合、取締役会決議の直前日の価額に
0.9を乗じた額以上の価額であること。
②現物出資規制(会社法207条1項)
価額調査のための検査役の選任が必要
③価額填補責任(会社法212条1項2号、213条1項)
効力発生時における対象会社株式の価額が募集事項として定めた価額に著しく不足するときは、
当該価額の決定に関与した買付者の取締役等や応募株主は、買付者に対してその不足額を支払う義務を負う
〈税法上〉
④応募株主への課税
株式を売却したとみなされ、売却益に課税
当初はこの4つの問題があり、自社株対価TOBは活用されませんでした。
2011年の「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の一部を改正する法律」における改正
①有利発行規制
→簡易要件(発行総額が純資産の20%以下)を満たした場合、
株主総会の特別決議は不要(改正産活法21条3項)
②現物出資規制
→事業再構築計画等につき主務大臣の認定を受けた事業者が、認定を受けた当該計画に従って
行う自社株対価TOBについては、検査役の調査が不要(改正産活法21条の2第1項)
③価額填補責任
→②と同一の条件充足により買付者の取締役、応募株主ともに価額填補責任を負わない
2011年には上記の会社法上の問題点に対する手当がなされたが、税法上の問題については手当されませんでした。
その後、経済産業省が平成24・25年の税制改正要望に税法上の課題への手当を盛り込むも実現しませんでした。
昨今の企業の自社株保有金額の上昇や株価自体の上昇・ M&Aの件数の増加により
再度検討されることになってのでしょうか。
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諸外国ではすでに制度が確立している
日本ではやっと税法上の課題について手当がなされるかもしれませんが、諸外国ではすでに制度が整っています。
一部を見てみましょう。
〈アメリカ〉
個人株主・法人株主
TOB完了後、議決権株式・無議決権株式の80%以上を保有。
〈イギリス〉
法人株主
以下のいずれか場合、課税繰り延べ
・普通株式25%超を保有
・議決権株式50%超を保有
・支配権獲得のためにTOBを実行。対価は株式または債権
〈ドイツ〉
個人株主・法人株主
以下の要件を全て満たす場合、課税繰り延べ
・少なくとも1株以上の株式が発行される
・議決権株式50%超を獲得
・ドイツにおける課税権が維持される
〈フランス〉
個人株主・法人株主
以下の要件を全て満たす場合、課税繰り延べ
・対価の現金が発行株式の額面総額の10%以下
・対価の現金が譲渡益の10%以下
〈オランダ〉
個人株主・法人株主
以下の要件を全て満たす場合、課税繰り延べ
・ 議決権株式50%超を獲得
・ 対価の現金が発行株式の額面総額の10%以下
以上のように諸外国ではTOB後の支配権について要件とするケースが多いようです。
日本での設計
それでは日本では繰り延べの要件はどのように設計されるのでしょうか。
産活法の認定を受けるには経営の実質的支配の獲得がある程度の確度で見込まれるもののみを対象とするという
観点から、対象会社の議決権割合が40%以上となるように公開買付における買付予定数の下限を
設定することが必要とされています(事業再編実施指針六のロ)。
他国の例と産活法の意図を考慮すると、支配権の獲得、つまり50%超の議決権の獲得が
課税繰り延べ要件となるのではないでしょうか。
今後の展開に注目したいと思います。
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