H29年の税制改正の中で大きく注目を集めたのが事業承継税制の改正だ。
今回の改正で、事業承継税制の「贈与税の納税猶予の特例」を活用する際に相続時精算課税制度との併用がついに認められるようになったのだ。
これにより認定取消の際の高額な贈与税負担のリスクがなくなった。今回は事業位承継税制の背景や本改正についてまとめた。
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そもそも事業承継税制って?
事業承継税制とは、非上場の中小企業のオーナーは資産の大半が自社の株式であることが多く、後継者が相続税を納税することができず事業が継続できなくなることが多かったため、その対策としてH21年に導入された。
中小企業が倒産することは景気浮揚の観点や雇用確保の観点など様々な面で問題であったからである。
事業承継税制には贈与と相続の2つのパターンがある。
〈贈与税の納税猶予の特例〉
一つは自社の株式を贈与する際に、発行済株式数の3分の2までの株式に対する贈与税を100%猶予される制度である。
贈与税の納税は猶予され、その後オーナーが亡くなった場合、贈与税は免除となり相続税を納めることになる。
その際、贈与を受けた株式についても相続税の対象となるが、次の〈相続税の納税猶予の特例〉を活用することが可能だ。
これだけ聞くと使わない手はないように感じると思うが、後述する条件を満たさないと通常の贈与とみなされるのである。
この認定取消のリスクが大きすぎ、今まではあまり活用されなかったのである。
〈相続税の納税猶予の特例〉
もう一つが自社株式を相続する際の納税を猶予する特例だ。
こちらは発行済株式数の3分の2までの株式に対する相続税を80%猶予するというものだ。
先述のように〈贈与税の納税猶予の特例〉からスライドして活用することが可能だ。
また、相続後さらに次の世代にその株式を承継した場合、本特例により猶予された相続税の納税は免除される。
厳しい条件と大きすぎる贈与税のリスク
中小企業の状況を鑑みた制度のように感じるが、これまではあまり活用されなかった。
というよりも、活用できなかったのであろう。
そこには厳しい条件と、それによる贈与税負担の大きなリスクがあったためだ。
〈厳しい様々な条件。特に雇用8割以上維持〉
これまでの主な条件は以下の通り。「贈与税の納税猶予の特例」の場合
・後継者は20歳以上
・後継者が役員に就任して3年以上経過していること
・後継者及び特別の関係がある者で議決権の過半を保有しており、かつこれらの者の中で最大の議決権を保有することになること
・先代経営者が贈与までに代表者を退任すること
・贈与者及び特別の関係がある者で議決権の過半を保有しており、かつこれらの者の中で最大の議決権を保有していたこと。
・会社の雇用を5年平均で8割以上維持すること
などなどかなり多くの要件が定められている。
これら全ての要件を満たし続けることが必要なのだ。
ちなみに平均で雇用の8割維持は、H27年に緩和された内容で、その前は一度でも8割を切った時点で認定取消となっていたのだ。
10人の従業員一時的にでも7人になるとその時点で認定取消となっていたのだ。
中小企業のための特例でありながら、なんとも実情に合わない要件だったのではないかと思う。
そしてこの要件から外れた場合、高額な贈与税の負担が発生するのである。
〈取消の場合の贈与税負担〉
例えば事業承継税制を活用した以下の例を見てみよう。
オーナー 自社株式を100株(100%)保有。
1株の評価は100万円。
そのうち66株を事業承継税制を活用し贈与したものの、1年後に条件を満たせなくなった。
すると贈与税は
(6,600万円ー110万円)×55%ー640万円=約2,930万円 となる。
要件から外れることでいきなり3,000万円弱の税負担が発生してしまうのだ。
非常に大きなリスクがあったことがおわかりいただけるだろう。
相続時精算課税制度との併用でリスク低減
先述の巨額な贈与税の負担というリスクは当然問題視されていた。
その問題を解消するのが今回の改正の肝である相続時精算課税制度との併用だ。
相続時精算課税制度とは、特定の贈与者と受贈者の間での贈与について2,500万円を超えた金額部分の税率を一律で20%とし、贈与した財産は相続財産に組み入れるというものだ。
20%の贈与税については相続税から控除することができる。
この制度では贈与した時点の価格で相続財産となるため、贈与後に値上がりする資産や不動産のように収益を生む資産の一括で贈与する際によく活用される。
この制度を活用した場合、暦年贈与は行うことができなくなる。
今回の改正でこの相続時精算課税制度との併用が可能となったのは非常に大きい。先ほどの例で見てみよう。
(6,600万円ー2,500万円)×20%=820万円 となる。
相続時精算課税制度を併用することで約2,000万円の負担の軽減が可能となる。
非常に大きな効果があることがわかるだろう。
事業承継税制の今後
今回は上記の大きな改正の他に、雇用の維持の計算上、従業員数の端数が切り下げから切り上げに変わるなど、事業承継税制の活用を促進しようとする姿勢が見られる。
数年はこの結果を見て、今後さらに改正が行われていくのだろう。
近年では事業承継の相手も以前のように親族だけではなくなってきており、M&Aの活用が普及してきている。
事業承継を取り巻く環境は常に変化し続けており、それに見合った制度を整えていくことが日本の継続的な発展に繋がるのだろう。
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